世界選手権への道 DEAF TEAM JAPAN vol.2 視野

音のないビーチで戦うデフの選手にとって、目で判断するチカラは、最も重要となってくる。
スポーツビジョンを養うために、代表候補選手は、『ビジョントレーニング』を導入することになった。
『ビジョントレーニング』のアドバイザーは、
ボクシング元WBAスーパーフライ級チャンピオンの飯田覚士さん。
今回は、『ビジョントレーニング』の効果や方法を、代表候補選手、牛尾洋人監督との対談形式でお伝えする。
手話通訳/根本由家

五感を鋭くする

飯田 私は、現役時代にビジョントレーニングと出会いました。トレーニングを受ける前は、動体視力を上げるためのトレーニングだと思ったんですけど、実際は目を閉じたり、記憶を養うトレーニングもありました。ビジョントレーニングは、五感を鋭くする狙いもあるんですよ。

監督 元々プロになられるほどの優れた動体視力はお持ちだったと思いますが、ビジョントレーニングを導入されてから、変化はありましたか?

飯田  ボクシングの基本は、アゴを引いて上目使いで構えますが、私はすぐにアゴが上がるクセがありました。理由を探っていくと、私の目は上目使いでピントを合わす能力が低かったんですね。トレーニングを積んでいくとだんだん改善されてきて、上目使いも苦じゃなくなりました。

選手 トレーニングを行うことで、視力も上がったりするんでしょうか?

飯田 視力が上がるわけではありませんが、両目をちゃんと使えていなかった人は、上がる場合もあります。自分では気づかないうちに、実は効き目しか使っていない人は多いんですよ。ちょっとテストしてみましょうか? 片方の指を目線の先に出してください。その親指と目の距離、半分だと思う地点に反対の指を下から出して、一直線に並べてください(トレーニング1参照)。

一同 (実際にやってみる)

飯田  向こうの指がどのように見えますか? 手前の指は、奥の指と両目を結んだ三角形の中に入っているので、向こう側の指が見えるはずです。効き目しか使っていない人は、効き目と指のライン上に指を入れてしまうので、指と指が重なって向こうの指が見えなくなります。普段から両目で見る習慣をつけることが大事です。目標物を追いかける時に効き目だけになってしまうと、どうしても視野が狭くなってしまうので、トレーニング前や朝起きた時に必ずチェックすることをおすすめします。

私たちは声が聞こえないから、自分の目だけで判断しなければいけない。だからこそビジョントレーニングが必要。

周辺視野を広げる

飯田 ビジョントレーニングには、3つの大きな要素があります。一つは目の動き、いわゆる眼球運動。もう一つは、いろんなモノや距離にすばやく焦点を合わせること。最後に両目のチームワーク。ほとんどの人が一つのモノを見る時に両目で見ますが、右目と左目がうまく連結しない人もいるんですよ。

選手 ビジョントレーニングを受けにくる子供たちは、どういう目的で受けられるんですか?

飯田 スポーツをした時に、何回も同じミスをするという子供の中には、運動神経が悪いからではなくて、実はちゃんと見えていない、目に原因があるという子もいます。疲れてくると両目のチームワークがとれなくなって二重に見えてしまったり、練習や試合の後半にミスが増えることが多くなります。

選手 私たちも、試合中に集中しすぎると、視野が狭くなることがあります。それはどうしたらいいのでしょうか?

飯田 ビジョントレーニングを行えば、どんな集中状態、緊張状態でも、視野を広く保つことができます。目線の中心付近にあるのが『中心視野』、その周りに漠然と見えるのが『周辺視野』です。球技で言えば、ボールという中心視野に集中しながら、コート全体の周辺視野が見えたほうがいい。ボクシングでも、相手の動きを見つつ、周辺視野として相手のつま先をぼんやりと視界に入れておきます。相手のつま先の向きや動きで、次にくるパンチを予測するんです。

選手 ビーチバレーは2人のコミュニケーションがすごく大切です。私たちは声が聞こえないので、自分の目だけで判断しなければいけない。だからこそ、見る力が重要になってきます。

飯田 周辺視野の広さは、絶対必要ですよね。ボールを見ながらパートナーの動きも見なければいけないですし。

監督 動いている時は、両目で焦点を合わせるのは難しいものなんですか?

飯田 もちろん難しくなります。それも必要な力です。例えば、トランポリンを跳びながら文字を読むとか、そういうトレーニングもやりますよ(トレーニング2参照)。

監督 プレー中は、顔の位置を固定して、目だけ動かす方がいいのでしょうか?

飯田 できるだけ、顔を動かさないほうが、焦点は合わせやすいですね。

監督 これは健聴者にも言えることですが、攻撃する方向に顔を動かしてしまうと、相手にコースがわかってしまうことがあります。レシーブにおいても、頭が動きすぎるとボールの位置を認識できなくなるので、できるだけ固定したほうがいいということですね。

飯田 やっぱり静止している状態の方が、目標物をとらえやすい。そういう体の使い方はすごく重要ですし、先ほど話したトランポリンを使ったトレーニングは、ぜひ実践してほしいところです。

選手 ビーチバレーのビジョンも、トランポリンを使ったトレーニングで高まるのですか?

飯田 ジャンプ系のスポーツでも走ったり、ラン系のスポーツでジャンプしたり、いろいろなトレーニングをしますよね。それと同じで、シンプルなビジョントレーニングをどんどん取り入れることで、いろいろな競技に活きてきます。

頭の使い方につながる

選手ビジョントレーニングをすることで、考え方、思考は変わったりしますか?

飯田  行き着く先は、そこなんですよ。ビジョントレーニングをすると競技の成績が上がるというのは前提ですが、目の使い方と頭の使い方は、直結してると私は考えています。よく「考え方の視野が狭い」と言われる人は、目の視野も狭いんです。例えば、一部分をみて全体を理解する人、または1、2、3と順に見て行って10まできて理解する人、それぞれだと思うんですけど、視野が広くなることで、頭も柔軟に使えるようになります。頭の使い方、目の使い方には通じるものがあるので、ビジョントレーニングを行うことで考え方が変わってきます。

選手 スポーツだけじゃなく、ビジョントレーニングは、各企業さんも取り入れたほうがいいですね(笑)。

飯田 ありがとうございます(笑)。人間は、スポーツでも勉強でも仕事でも、目で見て頭で考えてから体を動かしていくのが基本。その繰り返しなので、その流れをどんどんスピーディーに効率よく、正しくやっていこうっていうのが、ビジョントレーニングの主旨です。トレーニングは、場所を選ばずにできるメニューもありますし、体に負荷がかからないものが多いので、代表チームもぜひ取り入れていただけたらと思います。

ビジョントレーニング

飯田覚士 Satoshi Iida

1969年8月11日生まれ。愛知県名古屋市出身。元WBA世界スーパーフライ級王者。競技力向上を目指すため、現役時代から「ビジョントレーニング」を取り入れる。引退後も、「ビジョントレーニング」講座を定期的に開催。「飯田覚士・ボクシング塾・ボックスファイ」を経営している。

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